「婚約」
共に感じ 共に味わう
自然の秩序 偶然と必然
ユーモラスで ハーモニアスな世界
清らかな目 と 無垢な心
巡り会えたこと この上ない幸せ
この詩と、ご家族から受け継いだ大切な指輪を託していただき、お二人の指輪制作は始まりました。
私を信頼して‘デザインはお任せします’と言っていただいたのは、今年1月初めの銀座アトリエ。制作を任せていただいたことは嬉しくもあり、同時にとても緊張したのを覚えています。
お二人や、指輪の元の持ち主であるお祖母さまに気に入ってもらえるものを制作しなくては、ということ、リメイクの宝石には替えのきかない思い出が込められている、という2つが重なりじっくりと向き合う時間が必要でした。
この詩に込められた言葉の意味、アトリエで会話に出てきたキーワード、お二人の雰囲気など全てを頭の中で混ぜ合わせながら、デザインの方向性を考える日々を過ごしました。
リメイクの難しいところは、同じ素材がないために慎重に作業を進めることはもちろん、石の大きさや数が決まっているためデザインに制約があること。
また抽象的なお題から形をつくり上げていくことに、とても苦労しました。
夏頃までいろいろなアイデアをお二人と私で出し合い少しずつ進み、ようやく方向性が決定。
試作を経て完成した指輪は、元々お二人が気に入っていた《コスモ》と《マイア》の要素を取り入れ、宇宙と植物をモチーフにした2本の重ね着けができる指輪になりました。
婚約指輪として制作したプラチナの指輪は、0.5ct近い大粒のダイヤモンドと、周りのとりまきのメレとの間に空間をたっぷりと空け、まるでエネルギーに満ちた太陽のよう。
重なる華奢なゴールドの指輪は、上に向かって自由に、伸びやかに成長する植物をイメージ。葉脈を刻んだ小さな葉、みずみずしさを表現する水滴は有機的に伸びる指輪の形状にランダムに配置。
ぴったり沿う形にするのが普通ではあるけれど、柔軟に考えられるお二人だからこその発想で個性的なセットリングになりました。
お祖母さまから受け継いだ指輪2本が、新しい指輪に生まれ変わり花嫁さんの手元で輝いている写真を見せていただいたときには、本当に嬉しくて、この難しいオーダーを受けてよかったと心から思いました。
紆余曲折しながらの制作は、頂上を目指して山登りをしているような感覚に近く、まだ見ぬ美しい景色を想像しながら一歩ずつ地道に歩みを進めゴールに辿り着いた達成感は、お二人と一緒だったから感じられたのではないかと思います。
誰かの大切な指輪が、新しい誰かの大切なものになる。
そうやって長い年月をかけて‘思い’は刻まれていく。
何十年か先、ithでつくった婚約指輪を大切な人へ受け継ぐためにリメイクする日が訪れたら、とても嬉しい日になるだろうなと思います。
来年も、どんな出会いと指輪がithで生まれるのか楽しみです。
2024年はithのはじまりから10周年。準備をコツコツと進めていますので、お楽しみに。
良いお年をお迎えください。
ith 高橋亜結