2021年も残りわずかです。今年は福岡天神アトリエを2月にオープンさせる準備からはじまりました。
新しいアトリエができるたび、お客様との出会いと思い出の指輪が増えていきます。あっという間に駆け抜けた、充実の1年でした。
ithの原点を思い出す、福岡での指輪づくり
福岡天神アトリエのオープンから少し経った5月、お客さまの特別なオーダーを受けるため、私は福岡へ向かいました。
特別なオーダーとは、ご夫婦の思い出の石を結婚指輪に留めることができないか?というご相談でした。まずは実物を確認してご希望を叶えられるか、アトリエで思い出の石を拝見するところからはじまって、いろいろなアイデアを出し、お二人だけの特別な指輪をお仕立てすることができました。
このご夫婦とのご縁は、つくり手としての原点を改めて考えるきっかけになりました。
私のものづくりの原点は、“身に着ける人が、本当にいいと思える指輪をかたちにする”という、とてもシンプルなことです。それを今のithはどこまで本気で向き合って叶えることができているのだろうか?
小さな吉祥寺のアトリエ、名も無きブランドだったith。私にできることは、自分の技術とアイデアを出して指輪を完成させることくらいでした。大手のブランドで断られてしまうような手間隙のかかる制作や前例のないオーダーなども多かったけれど、職人として簡単に‘できない’というのが誠実ではない気がして、何とか叶える方法を模索しながら指輪をつくる。それがithの原点でした。
だんだんとアトリエの数が増え、つくり手や職人、ithに関わる仲間が多くなればなるほど、どのアトリエ、どのつくり手、どの職人でも一人一人違うお客さまの指輪づくりを安全に、安定したクオリティで完成させることも大切になっていきます。
ithが広がっていく嬉しさとは逆に、少しずつithに制限ができたように感じて、私の気持ちも窮屈になってしまっていましたが、このお客さまとの指輪づくりを通じて、イレギュラーな相談にも応えることがithの変わらない価値でありたいと私は思ったのです。
“気持ちに寄り添う”と言うのは簡単、実行するのは大変なことだとしても、たった一人でもithを頼りにしてくれる人がいるのなら、希望をできる限り叶えたい。新しいithのかたち、自分の役割を見つけるヒントをもらったような気がします。
守るべき、たいせつなもの
また、今年はプライベートな出来事で転機となる1年でした。結婚して3年目、妊娠出産、育児を経験したことです。
9月末に女の子を出産予定で8月からithを離れ、生まれてくる子のことを考えて過ごすのは、とても穏やかで丁寧な毎日でした。自分のお腹の中で日に日に大きくなり、胎動のたびに愛おしさは増していき、今までの経験にはない満たされた気持ちになりました。自分がith以外に夢中になれることが他にあるなんて!と驚きもありました。
予定日を過ぎても生まれる気配のない、マイペースな赤ちゃんにやきもきしながら臨月を過ごし、助産師さんの「さいごまで必ず陣痛には休憩があるから大丈夫ですよ!」という言葉に励まされ無事出産。産声を聞いた時には、赤ちゃんと二人でがんばったね、やりきったね私たち!というひとつの命をこの世に生み出した達成感がありました。
お昼過ぎに生まれた娘と、分娩室から見た秋の高く澄んだ水色の空、気持ち良さそうに浮かぶ雲、緑の葉っぱとカーテンをそよそよと揺らしていた風。とても晴れやかで清々しい気持ちで見た景色は、生涯忘れられない思い出です。
子育てという新しいやりがいを見つけたこと、娘が元気でいてくれることは、恵まれた幸せなことです。これから娘がどう成長するかは分かりませんが、自分の好きなことを見つけて、幸せだと思える人生にしてほしいと願っています。そして、私自身も娘の誕生でたくさんの嬉しいこと、辛いことを乗り越えながらどんなふうに変化と成長できるかが楽しみです。
世の中は今年もコロナで大変な1年で、たくさんの人が不安や我慢をしながら毎日を送っていました。まだまだ終わりが見えない中、何をするにも慎重な行動を求められる日常ですが、それでも幸せや、楽しみを探しながら2022年を過ごせますように。
私にとって2021年は、ithのつくり手として、母親として。守るべきものが2つになった1年でした。
メリークリスマス!そして良いお年をお迎えください。
ith 高橋亜結