ithは今年の6月で7周年を迎えました。2014年に吉祥寺の路地裏で小さなアトリエをはじめた時、私は指輪をつくったお客さまの人生にずっと携わっていきたいと思っていました。
とても重いことのように聞こえるかもしれないけれど、婚約指輪と結婚指輪は長い年月を夫婦と共にするアイテムで、一生のうちで何度もつくるものではありません。
大切なアイテムを、つくって納品したらおしまい、では制作した職人として無責任な気がすることと、何か困った時に気軽に相談してもらえるお抱え職人のような関係が築けたらいいな、という理想がありました。
そんな想いでithを続けてきて、先日嬉しい再会がありました。
4年ほど前に指輪をお仕立てしたお客さまから、ベビーリングのオーダーをいただいたのです。
最初にお二人とお会いしたのは2017年。ご両家のお顔合わせ前に、婚約指輪と結婚指輪の制作でアトリエへお越しいただいたお二人でした。既製品のブランドで選ぶのではなく、自分たちのこだわりを込めた指輪をつくりたい、と話してくれました。
お二人それぞれのお好みがあるけれど、結婚指輪は同じかたちにしたいとおっしゃって、たくさんのデザインを試着していただきました。着け比べているとき、お二人とも柔軟に相手の好みも取り入れようとしていた姿が、今でも印象に残っています。
悩んで決めたデザインは、婚約指輪は女性のお名前に‘花’という文字が使われているので、ダイヤモンドを留める石座を花のモチーフにしたフルオーダーメイドのお仕立て、結婚指輪はツイストフォルムのLento〈レント〉の幅を太くアレンジしたデザインになりました。
ご納品してからも、定期的にメンテナンスのためアトリエを訪ねてくださっていたお二人、今回は一緒にベビーリングをお仕立てしたいとご相談をいただきました。
ithのアニバーサリージュエリーに、Bambino〈バンビーノ〉というベビーリングがありご紹介しましたが、せっかくithでつくるなら自分たちと同じデザインの指輪を生まれてくる子に贈りたい、とお二人の結婚指輪とお揃いで〈レント〉を1号サイズにして制作することになりました。
今回のベビーリング制作でもデザインにこだわりを込め、お父さんとお母さんの誕生石であるピンクトルマリンとダイヤモンドで、お子さんの誕生石を挟むように3石を並べました。ご相談のときは、まだお子さんが生まれる前で、5月か6月どちらの誕生石になるか分からなかったので、誕生してから正式にデザインを確定し制作に進みました。
ご誕生は5月の31日で、誕生石であるエメラルドが中央に留められた、カラフルで可愛らしい配色のベビーリング。しばらくは、お母さんがペンダントとして身に着け、お子さんが大きくなったらプレゼントするそうです。スクスク元気に成長しますように!
こうして、結婚の準備が始まった時からご入籍、ご家族が増えてもお二人とのご縁が続いていくことは、私の人生にとって、とても励みになっています。単にものを販売、購入するという関係では得られない1つの出会いから始まったお二人とのご縁。家族の歴史を見守るような気持ちになれるのが、嬉しいです。
お客さまの日々が変化していくのと同じように、ithも私も変化をしています。
ithは7年目を迎えた今、11のアトリエと、オンラインを使ってお客さまをお迎えするようになりました。特に去年はコロナ禍でも安心してアトリエで過ごしてもらえるように試行錯誤する1年でした。
私も7年のうちに結婚をし、今年の秋には出産を控えています。職人としてものづくりに携わってきた今までと、夫婦で指輪をつくる気持ちを実際に体験し、一人でものを購入するのとはだいぶ違うのだという気付きがあり、別の視点から指輪をつくる楽しさを知りました。子供が生まれたら、私もベビーリングをつくろうと今からデザインを考えています。
ものごとが変化する時に、このままでいたいと思う気持ちと、新しい価値観や学びへのワクワクする気持ちが葛藤することがよくあるけれど、ithも私も楽しみながら、これからもたくましく変化と成長をしていきたいと思います。
ith 高橋亜結