こんにちは、つくり手の前堂です。
“指輪づくり” について、私たちithのつくり手が工房で学ぶリアルな様子をお伝えする《つくり手指輪制作ブログ》シリーズをお届けいたします。
(詳しくは イントロダクション記事 をご覧ください)
今回は、いよいよ《アニス》の模様を彫り込む工程について綴ります。
引き続き、職人の新居さんに彫りについて教わりましたので、ぜひお付き合いください。
《過去の記事はこちら》
《アニス》の彫り模様
ithの結婚指輪《アニス》とは、ハーブのスターアニスをモチーフにした彫り模様です。
アニスの彫り模様は “和彫り” という日本の伝統技法で彫っていく模様で、全て手彫りで仕上げていくため、職人の技術が問われるデザインでもあります。
全周にかけて12パターン模様が入るように彫るため、まずは指輪の表面を12分割して印をつけていきます。
指輪が動かないようしっかり固定して、彫る準備が整ったところで、職人の新居さん彫り方を教わりました。
鏨(タガネ)と金槌を使って “コンコンコン…” と、軽快に彫り進めていく新居さん。
とても細かい作業なので、顕微鏡を覗きながらの作業です。
「なるほど!こうやって彫るんだ!」と、普段なかなか見ることができない光景にワクワクしました。
アニスの彫りに初挑戦!
新居さんの手捌きをイメージしながら、私も彫ってみます。
顕微鏡を覗きながら見様見真似で挑戦するも、何ともぎこちない時間が続きました。
そして、少し慣れてきた頃に感じたのは “左右対称にまっすぐ彫るのは難しい” ということ。
和彫りの模様を彫る際は、#1の記事で研いだ “鏨(たがね)” という工具を指で支えながら指輪の表面に当てて彫っていきます。
新居さん曰く、綺麗に彫り進めるために欠かせないポイントがあるのだそうです。
・まっすぐ彫れているか
・彫ったラインの左右の斜面がどちらかに傾かず対称になっているか
・指輪が薄くならないよう、彫りが深すぎないか注意する
・彫り具合を指先の感触で確かめながら彫る
…など、さまざまなことを同時に考えながら彫る必要があるのだと教わりました。
会話の中で一番印象的だったのは “鏨と彫る面の抵抗を、指先で感じ取りながら彫る” という教えでした。
“それってどういうこと?”と疑問に思いつつも、まずは慣れるためにも彫る練習を重ねていきます。
自分の手なのに、指先のコントロールがままならず、思わず唸りました。
しかし、何度も挑戦していくうちに、少しずつですが指先の感覚の違いが分かってきました。
“綺麗に彫れたときの感覚を忘れないように、そしていつも同じ感覚で彫れるように”
想像よりも遥かに繊細な作業に驚いたと同時に、それは何より難しいことなのかと実感します。
「指輪は自分の鏡なんだよ。職人も人間だからね、ちゃんとコンディションが整ってないといつも通り綺麗には彫れない。
体調が悪いときなんかはすぐに指輪に表れるから、自分自身のコンディションを整えるのも仕事なんだ」
そう教えてくださった新居さん。
指輪のサンプルを見ているだけでは分からない、職人ならではの指輪に対する思いを改めて感じて、胸が熱くなりました。
和彫りの難しさを理解した上で、初めて彫ったアニス模様がこちら。
彫りのラインがガタガタと乱れてしまい、模様がぎりぎり分かるくらいのクオリティです。
和彫りはその難しさゆえに、何十年も修練を積むといいます。
ベテランの職人でも、少し時間があくだけで感覚が鈍ってしまうのだそう。自身の技術を維持するためにも、毎日のトレーニングが大切なのだと教わりました。
数時間かけて四苦八苦しながら彫り進めたアニス。
まだまだ完成ではないですが、試行錯誤を重ねながら彫ったからこそ、愛着も湧いてきます。
ここまで彫るだけで目も腕もへとへとに疲れてしまいましたが、何にも代え難い貴重な時間となりました!
彫り終えた後は、仕上げの工程に入ります。
次回も楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです。
- #4へつづく-
つくり手 前堂