2024.05.11 インタビュー

[interview①]ithの始まりを支えた三人が語る、“お客様に寄り添うものづくり”とは -前編-

2024年、ithは10周年を迎えます。2014年に吉祥寺の小さなアトリエからスタートし、その翌年には表参道、横浜にアトリエをオープン。現在は国内に10店舗、海外に3店舗を展開するジュエリーブランドへと成長しました。

そこで、今回は代表を務める高橋さんと、職人や外部パートナーたちをまとめる工房長・石川さん、そして、表参道アトリエで主任を務めるつくり手・遠藤さんに、ithの10年を振り返ってもらいます。

一人の女性職人が立ち上げたオーダーメイドのジュエリーブランド

――高橋さん、まず設立当初の思いについてお聞かせください。

 

高橋さん(以下、高橋) ithは、2014年に「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」をコンセプトにスタートしましたが、当初からすでにアトリエを4つ作ること検討されていました。その時点で、私はithというブランドが成長し長く続けていけるなら、どこまでも突き進もうと覚悟を決めました。

 

 

――そんな高橋さんと一緒にithを長年支えてきたのが、石川さんと遠藤さんの二人です。ithの歴史とともに歩んできたといっても過言ではない二人ですが、そもそもどのようなきっかけでithに入社されたのでしょうか?

 

石川さん(以下、石川) 僕がithに入ったのは、表参道のアトリエがオープンする少し前でした。当時、ithで働いていた先輩から、「手伝ってほしい」と声を掛けられたんです。そのころ、僕は大手ジュエリーブランドで働いていたのですが、ジュエリー職人だった父が亡くなる前に「お客様の喜んでくれる顔がちゃんと見られる、そういう仕事をした方がいいぞ」といった言葉が胸に残っていて……。僕の中で、“お客様のために”というithのコンセプトと父の姿が重なり、入社を決めました。

 

遠藤さん(以下、遠藤) 私が入社したのも、立ち上げから1年後くらいでした。私は社会人になってから美大に入り、日本画を専攻したのですが、絵を描く過程が職人のようだなと思ったんです。それで、もっとものづくりに深く関わりたいと思ったとき、ithの求人募集を見つけました。武蔵野市で育った私には、吉祥寺のアトリエから始まったことに親近感もあったんです。

 

プロフェッショナルとしてお客様に接する“つくり手”

 

――ithでは、当初からお客様と打ち合わせをする接客スタッフを“つくり手”と呼んでいます。お客様の中には、実際に作る人というイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか?  

 

高橋 私たちが“つくり手”と呼んでいるのは、プロとして指輪の作り方や道具、作られた指輪の名前の由来などの知識を持って、お客様に接してほしいと思っているからです。そのために、つくり手には教育の中で指輪制作を実習してもらっています。そうすることで、お客様話す内容にもリアリティが生まれますし、伝わりやすさも全然違うと思うからです。

 

遠藤 最初は私も本当に大変でした。でも、入社後に工房で研修があって、そこで高橋さんたちにものづくりの厳しさや楽しさを学ばせてもらって、それがつくり手としてお客様と接する上で大きな経験になっています。

 

石川 ithの理想としては、高橋さんのように指輪も作れて、接客もできる人が何人もいるのがベストですが、実際はとても難しい。その代わりに、工房にはつくり手たちが自由に使える机が用意されていて、つくり手も職人も自分の作品が作りたければ、勤務時間外に自由に工房の機械を使うことができるようになっています。

 

高橋 私たちがお客様と接する時間は、よいものを作るためにお互いの意見を出し合い、それをひとつひとつ確認していく時間なんです。その対話を積み重ねることで、お客様の理想の指輪のデザイン・仕様に近づくと思っています。

 

遠藤 そうですね、私も自分の手を動かして学んだ大切なことをお客様に伝え、そして、お客様が求めているものを一緒に作っていくのが、つくり手としての私の役目だと思っています。

 

高橋 遠藤さんはつくり手から生産管理部に異動して、またつくり手に戻ってきましたよね。

 

遠藤 はい、やっぱり毎回違うお客様と、違うデザインを考える方が楽しいと思ったんです。これまで800組以上のお客様の指輪づくりをお手伝いさせていただきましたが、オーダーシートを見ればお客様のお顔が自然と浮かびます。それくらい、つくり手にとってお客様は近い存在ですね。

 

紆余曲折しながらも感じるブランドとしての成長

 

――この10年、ブランドとしてもさまざまなことがあったと思いますが、皆さんはどのように感じていますか?

 

高橋 私は不安を感じなかった日はあまりないですし、今も『これならいける!』という自信はありません。でも、一緒に働きたいという人が増えたことや、新しくアトリエをオープンするたびにお客様が増えていくのをみると、少しずつ世の中に受け入れてもらえているのかなと安心も感じています

 

遠藤 私は“気がついたら10年”という感じです。最初のころは本当に忙しくて、いろんなことが走りながら決まっていくような感覚でした。

 

高橋 そうですね(笑)。この10年はithのよさは何だろうと模索しながら、私もみんなと一緒に走ってきた感じです。その中で、時には迷うこともあり、途中で『あれ、違う』と気づくこともあり。本当に紆余曲折しながら成長してきた10年でした。

 

石川 僕は、ithのスタイルを貫くには、4店舗くらいがMAXだろうなと思っていました。それ以上にアトリエが増えると、ithが大切にしているコンセプトが弱まったり、クオリティのレベルが下がってしまうかもしれないと危惧していたんです。だから、それを防ぐためにも、僕らのような昔からいるスタッフがithのよさを守り、きちんと継承していかなくてはだめだと思ってきました。

 

遠藤 今、アトリエにお越しいただくお客様たちは、当初のお客様と変わらない部分もありますが、一方でそこまでオーダーメイドにこだわらず、ithのブランドとしての雰囲気のよさに共感されてご来訪いただく方も増えてきたように感じています。

 

高橋 たくさんの方とご縁をいただけるようになりましたね。ithというブランドが認知されてきたということとても嬉しいです

…次回へつづく。

 

写真左:石川さん[工房長]
写真中央:高橋さん[ithブランド代表]
写真右:遠藤さん[表参道アトリエ主任]

 

【プロフィール】

高橋さん[ithブランド代表]

2014年にith吉祥寺アトリエを構え、接客と指輪づくりの両方に携わる。現在も自らアトリエで接客を行い、ithを最前線で牽引する。指輪は「着ける人こそが主人公」ということを大切に考えており、お客様のために何ができるかを常に考え続ける姿勢はオープン当初から変わらない。

 

石川さん[工房長]

2015年に入社し、工房を統括する責任者として、高橋とともにithのものづくりを支える。ジュエリー職人である父親の影響を受け、幼少期からものづくりに携わってきた。週末は、アトリエのつくり手たちにオンラインでお客様の指輪制作をアドバイスするなどサポートも行う。

 

遠藤さん[表参道アトリエ主任]

2015年に「ものづくりに携わりたい」とつくり手として入社し、その後、生産管理へ異動。そこでキャリアを積んだ後、再び、つくり手に復帰し、現在は主任として表参道アトリエをまとめる。担当したお客様の数はithの中でも多く、800組以上にものぼる。

 

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